概要

DeFi(分散型金融)で流動性提供を行う全ての投資家が知るべき「インパーマネントロス(変動損失)」のリスクと対策を網羅的に解説します。
インパーマネントロスとは何か、なぜ発生するのかという基本を具体的な計算例と図解で紐解き、その上で、①ステーブルコインペアの活用、②高相関ペアの選択、③集中流動性(Uniswap V3)、④IL保護機能、⑤カスタム比率プール(Balancer)という5つのレベル別対策を提示。
最後に、Uniswap、Curve、Balancerという3つの鉄板プロトコルを紹介し、安全かつ戦略的な資産運用方法を提案します。
-
DeFi学習20ステップ目次
DeFi(分散型金融)の基本から応用までを20ステップで完全解説!ウォレット作成、DEXでの取引、レンディング、イールドファーミング、リスク管理まで、初心者でも着実に知識を習得し、未来の金融テクノロジーを実践的に学べるロードマップです。
続きを見る
目次
はじめに
DeFi(分散型金融)の世界に足を踏み入れ、「流動性提供(Liquidity Providing)」という言葉を聞いたあなたは、きっと胸を躍らせていることでしょう。「仮想通貨を預けておくだけで、毎日チャリンチャリンと手数料収入が入る。これぞまさに、夢の不労所得じゃないか!」と。
その感覚は、決して間違いではありません。流動性提供は、DeFiが生み出した最も革新的な仕組みの一つであり、多くの人々に新たな収益機会をもたらしました。しかし、その輝かしいリターンの影には、多くの初心者が、そして時には経験者さえもが陥る深刻な落とし穴が存在します。
それが、今回徹底的に解説する「インパーマネントロス(Impermanent Loss / 変動損失)」です。
この言葉を聞いて、「なんだか難しそう…」「自分には関係ないや」とページを閉じようとしたあなた、お待ちください。 もしあなたがDeFiで本気で資産を増やしたいと考えるなら、このインパーマネントロスは避けては通れない、絶対に理解しなければならない最重要概念です。
なぜなら、インパーマネントロスを知らずに流動性提供を行うのは、コンパスも地図も持たずに嵐の海へ航海に出るようなものだからです。運が良ければ目的地にたどり着けるかもしれませんが、ほとんどの場合、気づいた時には大切な資産が思ったように増えていない、あるいは「ただガチホ(HODL)していた方がマシだった…」という悲しい現実に直面することになります。
この記事では、約6000字をかけて、以下の内容を徹底的に、そしてどこよりも分かりやすく解説します。
- インパーマネントロスとは何か? その本質的な意味を、具体的な計算例と図解で直感的に理解します。
- なぜ「損失」が生まれるのか? AMM(自動マーケットメーカー)の根幹をなす数式
x * y = k
の動きを解き明かします。 - リスクを最小限に抑えるための5つの具体的な戦略とは? 初心者向けから上級者向けまで、あなたのレベルに合わせた対策を伝授します。
- 【2025年最新版】インパーマネントロス対策を考慮した、本当におすすめできるDeFiプロトコル3選を、その強みと注意点とともに紹介します。
この記事を読み終える頃には、あなたはインパーマネントロスを「漠然とした恐怖」ではなく「管理・コントロール可能なコスト」として捉え、より戦略的かつ安全にDeFiの世界で資産を運用できるようになっているはずです。さあ、DeFiでの成功に向けた、最後の、そして最も重要な知識のピースを埋めに行きましょう。
第1章:流動性提供の魅力と基本構造(おさらい)
インパーマネントロスの本題に入る前に、なぜ私たちが流動性提供に魅了されるのか、その基本的な仕組みを簡単におさらいしておきましょう。すでにご存知の方は、この章を読み飛ばしていただいても構いません。
AMMと流動性プール:DeFi取引所の心臓部
DeFiにおける多くの取引所(DEX: Decentralized Exchange)は、AMM(自動マーケットメーカー)という仕組みで動いています。これは、従来の証券取引所のように「買い手」と「売り手」を直接マッチングさせるのではなく、「流動性プール」と呼ばれる巨大な仮想通貨のプールを介して取引を行う方式です。
ユーザーは、この流動性プールに対して、自分の持っている仮想通貨をスワップ(交換)します。
流動性提供者(LP)の役割と報酬
では、その「流動性プール」の資金はどこから来るのでしょうか? それこそが、あなたのような流動性提供者(LP: Liquidity Provider)の役割です。
LPは、通常2種類の仮想通貨をペア(例: ETHとUSDC)にして流動性プールに預け入れます。この預け入れられた資産が取引の元手となり、DEXの円滑な運営を支えるのです。そして、その貢献に対する見返りとして、LPはそのプールで発生した取引手数料の一部を受け取ることができます。
これが、流動性提供で「不労所得」が生まれる基本的なカラクリです。
graph LR subgraph "DeFiユーザーの世界" A[トレーダー] -- "ETHをUSDCに交換したい" --> B{AMM (DEX)} end subgraph "流動性提供者(LP)の世界" C[あなた (LP)] -- "ETHとUSDCをペアで預ける" --> D[流動性プール] end subgraph "AMMの内部処理" B -- "プールからUSDCを取り出し..." --> D D -- "...代わりにETHをプールに入れる" --> B B -- "USDCをトレーダーに渡す" --> A E[取引手数料] -- "一部をLPに還元" --> C end style C fill:#9f9,stroke:#333,stroke-width:2px style E fill:#9f9,stroke:#333,stroke-width:2px
この図のように、あなたはプールに資産を預けるだけで、あとはAMMが自動で取引を処理し、手数料の一部をあなたに分配してくれます。非常に魅力的ですね。しかし、問題は価格が変動した時に起こります。
第2章:インパーマネントロスの正体と計算方法
いよいよ本題です。インパーマネントロスとは、一体何なのでしょうか。
一言で定義するなら、こうです。
重要なのは、これが「HODLしていた場合との比較における機会損失」であるという点です。法定通貨(円やドル)に対して絶対的な損失が出ているとは限りません。しかし、この損失が、あなたが苦労して稼いだ取引手数料をいとも簡単に食いつぶしてしまう可能性があるのです。
なぜ「損失」が生まれるのか? AMMの宿命 x * y = k
この奇妙な損失は、AMMの根幹をなす「定数積マーケットメーカーモデル」に起因します。多くのAMMでは、プール内の2つのトークンの数量をそれぞれ x, y とすると、その積 k が常に一定に保たれるように設計されています。
x×y=k
この k
は「不変量(Invariant)」と呼ばれます。誰かが取引を行うと、一方のトークンの数量が減り、もう一方のトークンの数量が増えますが、その積 k
は(手数料を無視すれば)常に同じ値を保とうとします。
この数式が、価格変動時にLPの資産構成を自動的にリバランスさせ、インパーマネントロスの原因となるのです。
具体例で学ぶ:インパーマネントロスの計算ステップ
百聞は一見に如かず。具体的な数字を使って、インパーマネントロスが発生するプロセスを追ってみましょう。
【前提条件】
- あなたは ETH / USDC の流動性プールに資産を提供します。
- 現在の価格: 1 ETH = 4,000 USDC
- あなたの提供資産: 1 ETH と 4,000 USDC (合計価値: 8,000ドル)
Step 1: 流動性提供時の状態
まず、あなたが流動性を提供した瞬間の状態を整理します。
- プール内のあなたの資産:
x
(ETHの数量): 1 ETHy
(USDCの数量): 4,000 USDC
- この時点での定数
k
を計算します。- k=xtimesy=1times4000=4000
- あなたの総資産価値: (1 ETH * $4,000) + 4,000 USDC = $8,000
ここまでは簡単ですね。では、ETHの価格が上昇した場合を考えてみましょう。
Step 2: 価格変動後の状態
市場でETHの価格が急騰し、1 ETH = 4,900 USDC になったとします。
AMMのプールでは、この新しい市場価格を反映するために、トレーダーによる裁定取引(アービトラージ)が行われます。割安になっているプール内のETHが買われ、代わりにUSDCがプールに供給されます。この取引の結果、プール内のETHは減り、USDCは増えます。
では、あなたの持ち分はどのように変化するのでしょうか? ここで x * y = k
の公式が登場します。
- 新しい価格でのトークン比率: プール内の価格は、常に
y / x
で表されます。新しい価格は 4,900 なので、y / x = 4900
となります。 - 連立方程式を解く: 私たちは以下の2つの式を知っています。
- xtimesy=4000 (kは不変)
- y/x=4900 (新しい価格)
- x=sqrtk/p=sqrt4000/4900approx0.9035 ETH
- y=sqrtktimesp=sqrt4000times4900approx4427.18 USDC
Step 3: HODLした場合との価値比較
さあ、運命の比較です。価格変動後、あなたの資産はどうなったでしょうか?
- A) 流動性提供していた場合の資産価値:
- 保有資産: 0.9035 ETH と 4,427.18 USDC
- 現在の価値: (0.9035 ETH * $4,900/ETH) + 4,427.18 USDC = $4,427.15 + $4,427.18 = $8,854.33
- B) もしHODLしていた場合の資産価値:
- 保有資産: 1 ETH と 4,000 USDC
- 現在の価値: (1 ETH * $4,900/ETH) + 4,000 USDC = $4,900 + $4,000 = $9,000
【結論】
- インパーマネントロス = (B) HODL時の価値 - (A) LP提供時の価値
- $9,000 - $8,854.33 = $145.67
どうでしょうか。ETHの価格が上がって総資産は8,000から8,854に増えているにもかかわらず、もし黙ってHODLしていれば得られたはずの$9,000には届いていないのです。この差額 $145.67 こそが、インパーマネントロスです。
これは、AMMの仕組みが「価格が上がったETHを自動で売り(数量が減った)」「価格が下がったUSDCを自動で買い増した(数量が増えた)」のと同じ動きをしたために発生します。あなたは、最もパフォーマンスの良い資産(ETH)を一部手放し、パフォーマンスの悪い資産(USDC)を買い増すという、投資のセオリーとは逆の行動を、システムによって強制させられたのです。
【計算結果まとめ】
項目 | 流動性提供時 (1ETH = $4,000) | 価格変動後 (1ETH = $4,900) |
HODLした場合 | ||
ETH保有量 | 1 ETH | 1 ETH |
USDC保有量 | 4,000 USDC | 4,000 USDC |
総資産価値 | $8,000 | $9,000 |
LP提供した場合 | ||
ETH保有量 | 1 ETH | 0.9035 ETH (減少) |
USDC保有量 | 4,000 USDC | 4,427.18 USDC (増加) |
総資産価値 | $8,000 | $8,854.33 |
インパーマネントロス | $0 | $145.67 (約1.62%) |
graph LR subgraph "初期状態: 1 ETH = 4,000 USDC" A["あなたのLPシェア"] A -- "1 ETH" --> A1[ETH] A -- "4,000 USDC" --> A2[USDC] A3["総価値: $8,000"] A --- A3 end subgraph "価格変動後: 1 ETH = 4,900 USDC" B["あなたのLPシェア (自動リバランス後)"] B -- "0.9035 ETH" --> B1[ETH] B -- "4,427.18 USDC" --> B2[USDC] B3["総価値: $8,854"] C["もしHODLしていたら…"] C -- "1 ETH" --> C1[ETH] C -- "4,000 USDC" --> C2[USDC] C3["総価値: $9,000"] D["差額<br/>(インパーマネントロス)<br/>$146"] C3 -- " " --- B3 B3 -- " " --- D C3 -- " " --- D end A ==> B style A fill:#D6EAF8,stroke:#333,stroke-width:2px style B fill:#FADBD8,stroke:#333,stroke-width:2px style C fill:#D5F5E3,stroke:#333,stroke-width:2px style D fill:#FCF3CF,stroke:#C0392B,stroke-width:3px,stroke-dasharray: 5 5
なぜ「インパーマネント(非永続的)」なのか?
この損失が「インパーマネント(非永続的)」と呼ばれる理由は、もしETHの価格が再び当初の 1 ETH = 4,000 USDC
に戻れば、プール内のトークン数量も元の 1 ETH
と 4,000 USDC
に戻り、HODLしていた場合との差額(損失)が理論上はゼロになるからです。
しかし、現実の市場で一度動いた価格が正確に元の比率に戻る保証はどこにもありません。多くのケースでは、この「非永続的」な損失は、あなたが流動性提供を解除(引き出し)する際に「永続的」な実現損失として確定します。
第3章:インパーマネントロスへの5つの神対策
「もう流動性提供なんて怖くてできない…」と思ったかもしれません。しかし、賢い投資家はリスクをただ恐れるのではなく、それを理解し、管理します。幸いなことに、インパーマネントロスの影響を軽減、あるいは相殺するための戦略がいくつも存在します。
ここでは、初心者でも実践しやすいものから、より高度なものまで、5つの具体的な対策を伝授します。
対策1:【超基本】ステーブルコインペアに提供する
最もシンプルかつ効果的な方法は、価格変動がほとんどない資産同士のペアに流動性を提供することです。その代表格が、USDC / USDT のような米ドルペッグのステーブルコイン同士のペアです。
- メリット:
- 2つのコインの価値が常に「1ドル」近辺で安定しているため、価格比率の変動が極めて小さい。
- インパーマネントロスのリスクをほぼゼロに抑えることが可能。
- デメリット:
- 取引のボラティリティが低いため、得られる取引手数料も比較的低い傾向にある。
- ごく稀に、ステーブルコインがドルとのペッグを失う「ディペッグ」のリスクがゼロではない。
結論: 大きなリターンは狙えませんが、「まずは安全にDeFiの手数料収益を体験してみたい」という初心者の方には最適な選択肢です。
対策2:【応用編】相関性の高いペアを選ぶ
次に考えられるのは、値動きが似ている(相関性が高い)資産同士のペアを選ぶ戦略です。例えば、wBTC / ETH のペアです。
BTCとETHは、どちらも暗号資産市場を牽引する主要なコインであり、市場全体が上昇する時は共に上昇し、下落する時は共に下落する傾向があります。もちろん、上昇率や下落率に差は出ますが、一方が暴騰し、もう一方が暴落するというケースは比較的少ないです。
- メリット:
- 価格比率の変動がステーブルコインペアよりは大きいものの、全く相関のないペアに比べてインパーマネントロスを抑制できる。
- ステーブルコインペアよりも高い手数料収益が期待できる。
- デメリット:
- あくまで相関であり、常に同じ値動きをするわけではないため、ILリスクは依然として存在する。
結論: ステーブルコインペアの利回りでは物足りない、少しリスクを取ってでもリターンを狙いたい中級者向けの戦略です。
対策3:【新常識】集中流動性(Concentrated Liquidity)を活用する
これは、現代のDeFiにおける最も重要なIL対策の一つです。この仕組みを世に広めたのが、DEXの巨人Uniswap V3です。
従来のAMMでは、流動性を「0から無限大」までの全ての価格範囲に均等に提供していました。これは非常に資本効率が悪く、ほとんど取引されない価格帯にもあなたの貴重な資産がロックされていることを意味します。
集中流動性は、LPが「この価格帯で取引が行われるだろう」と予測する特定のレンジに、自分の流動性を集中させることができる仕組みです。
graph TD subgraph "従来の流動性提供 (Uniswap V2)" A["あなたの資産"] --> B((流動性)) B -- "0から無限大まで" --> C[価格レンジ全体に薄く広く提供] D["資本効率: 低"] C --> D end subgraph "集中流動性 (Uniswap V3)" E["あなたの資産"] --> F((流動性)) F -- "指定した価格レンジに" --> G[現在の価格周辺に厚く集中] H["資本効率: 高"] G --> H end style A fill:#FADBD8,stroke:#333 style E fill:#D5F5E3,stroke:#333
- メリット:
- 流動性を集中させた分、同じ資金でも何倍、何十倍もの取引手数料を稼ぐことが可能になる。
- この高い手数料収益によって、発生したインパーマネントロスを十分に相殺し、トータルで大きなプラスリターンを狙える。
- デメリット:
- 価格が指定したレンジを外れてしまう(レンジアウト)と、取引に参加できなくなり、手数料が一切稼げなくなる。
- レンジアウトすると、あなたの資産は100%価格の安い方のトークンに変換されてしまい、ILが最大化する。定期的なリバランス(レンジの再設定)が必要。
結論: アクティブな管理が必要な上級者向けの戦略ですが、使いこなせばILを圧倒するリターンを実現できる最も強力な武器です。
対策4:【保険付き】インパーマネントロス保護(ILP)機能
一部のDeFiプロトコルは、インパーマネントロスを補填してくれる「保険」のような機能を提供しています。これをILP(Impermanent Loss Protection)と呼びます。
例えば、特定のプールに長期間(例: 100日以上)資産を預け入れることで、もしILが発生した場合に、その損失分をプロトコルの独自トークンなどで補填してくれる、といった仕組みです。
- メリット:
- IL発生時のダウンサイドリスクを限定できるという安心感がある。
- デメリット:
- 保護が有効になるまで一定期間のロックが必要。
- 補填がプロトコルの独自トークンで行われる場合、そのトークンの価格下落リスクを負うことになる。
- ILPを提供しているプロトコルは限定的。
結論: 長期目線で特定のプロトコルを応援したい、かつILリスクを直接的にヘッジしたい場合に有効な選択肢です。
対策5:【比率自在】カスタム比率のプールを利用する
多くのLPは「50%:50%」の比率で構成されていますが、Balancerのようなプロトコルでは、「80%:20%」や「60%:40%」といったカスタム比率のプールを作成できます。
これは、インパーマネントロスのコントロールにおいて非常に強力なツールとなります。
例えば、あなたが「長期的にはETHはBTCより値上がりするだろう」と強く信じているとします。その場合、「80% wETH / 20% wBTC」のようなプールに流動性を提供します。
- メリット:
- 値上がりを期待する資産の比率を高くしておくことで、価格上昇の恩恵をより多く受けられる。
- 50/50プールに比べて、価格変動に対するポートフォリオの変動が緩やかになり、ILの影響を抑えることができる。
- デメリット:
- プールの設計が複雑になる。
- 取引量が少ないと、手数料収益も少なくなる可能性がある。
結論: 自分の相場観に基づき、ポートフォリオを能動的に構築したい上級者向けの戦略です。
対策 | 主なメリット | 主なデメリット | おすすめレベル |
1. ステーブルコインペア | ILリスクほぼゼロ、シンプル | 低リターン、ディペッグリスク | ★☆☆ (初心者) |
2. 高相関ペア | ILリスク抑制、そこそこのリターン | ILリスクは依然として存在 | ★★☆ (初~中級者) |
3. 集中流動性 | 高い手数料収益でILを相殺 | レンジアウトのリスク、要管理 | ★★★ (中~上級者) |
4. IL保護 (ILP) | 直接的な損失補填による安心感 | 資金ロック、独自トークンの価格リスク | ★★☆ (中級者) |
5. カスタム比率プール | ポートフォリオの最適化、IL制御 | 複雑、流動性が低い可能性 | ★★★ (上級者) |
第4章:【2025年最新版】IL対策を考慮した鉄板DeFiプロトコル3選
さて、理論と対策が分かったところで、いよいよ実践です。数あるDeFiプロトコルの中から、インパーマネントロスを意識した上で、安全性、収益性、将来性を兼ね備えた、2025年現在、自信を持っておすすめできる3つのプラットフォームを厳選してご紹介します。
Uniswap (ユニスワップ) V3 - 集中流動性の王様
もはや説明不要のDEXの巨人、Uniswap。そのバージョン3(V3)は「集中流動性」を世に広め、LP戦略のゲームチェンジを引き起こしました。
- 訴求ポイント:
- 圧倒的な資本効率: 集中流動性により、少ない資金でも従来の何倍もの手数料を稼ぐことが可能です。インパーマネントロスを手数料収益でねじ伏せる、という最もパワフルな戦略を取ることができます。
- 豊富な流動性と取引量: 世界で最も利用されているDEXの一つであるため、主要なペアには潤沢な取引量があり、手数料収入が安定しています。
- 自由度の高い戦略: 自分で設定したレンジが、他のLPの戦略と組み合わさることで、まるで一つの金融商品を設計するような感覚で流動性提供ができます。
- IL対策としての強み: 対策3「集中流動性」を最もピュアな形で実践できるプラットフォームです。例えば、値動きが安定しているETH/USDCペアの現在の価格近辺にレンジを絞って流動性を提供すれば、ステーブルペア並みの安定性を保ちつつ、遥かに高いリターンを狙うことも可能です。
- 注意点:
- レンジアウトのリスク管理が必須です。市場の大きな変動を予測し、事前にレンジを広げたり、ポジションを解消したりするアクティブな管理が求められます。
- 初心者にとっては、どのレンジに設定すれば良いのか判断が難しい場合があります。
こんな人におすすめ: ✅ DeFiの運用に積極的に関与したいアクティブな投資家 ✅ 資本効率を最大化し、ILを上回る手数料を狙いたい人 ✅ リスク管理を自分で行い、リターンを追求したい中~上級者
Curve Finance (カーブ・ファイナンス) - ステーブルコインの鉄壁要塞
Curveは、ステーブルコイン同士の交換に特化することで、その地位を不動のものとしたDEXです。そのアルゴリズムは、1ドル近辺での交換において、他のDEXとは比較にならないほど低いスリッページ(価格のズレ)を実現します。
- 訴求ポイント:
- 極限まで抑えられたILリスク: 主な取り扱いペアがUSDC, USDT, DAIといったステーブルコインであるため、対策1「ステーブルコインペア」を実践するには最高の環境です。価格変動がほぼないため、安心して資産を預けられます。
- 深い流動性と実績: 長年の運用実績と、DeFi全体でもトップクラスのTVL(預かり資産総額)が、その信頼性を物語っています。
- 追加報酬(CRVトークン): 取引手数料に加え、プロトコルのガバナンストークンであるCRVを追加報酬として得られるプールが多く、トータルでの利回りを高めています。
- IL対策としての強み: インパーマネントロスを「そもそも発生させない」というアプローチにおいて、右に出るものはいません。一部、wBTC/renBTCのようなペッグされた資産のプールもあり、同様に低いILリスクで運用が可能です。
- 注意点:
- ステーブルコイン以外のペア(TriCryptoなど)も存在しますが、それらは当然ILリスクを伴います。
- リターンは他のアグレッシブなプロトコルに比べると、穏やかになる傾向があります。
こんな人におすすめ: ✅ とにかく安全第一で、ILリスクを避けたい初心者 ✅ 巨額の資産を、低リスクで安定的に運用したい大口投資家 ✅ DeFiポートフォリオの「守り」の部分を固めたい全ての人
Balancer (バランサー) - ポートフォリオ戦略の芸術家
Balancerは、その名の通り「ポートフォリオのバランスを取る」ことに長けた、非常に柔軟性の高いプロトコルです。Uniswapの「50/50」という制約を取り払い、LPが自由に比率を設定できるプールを提供します。
- 訴求ポイント:
- 柔軟なポートフォリオ構築: 対策5「カスタム比率プール」の主戦場です。「80% ETH / 20% USDC」のような、強気なアセットアロケーションをLPの形で実現できます。これは、単なる流動性提供を超え、インデックスファンドのような役割を果たします。
- ILの能動的なコントロール: 自分の相場観に基づき、値上がり益を最大化しつつ、ILの影響を最小限に抑えるような比率を設計できます。例えば、ボラティリティの高い新興トークンを10%だけ組み込む、といった戦略も可能です。
- 多様なプールタイプ: ステーブルコインに最適化されたプールや、複数のトークン(最大8種類)を組み合わせたプールなど、LPの戦略に合わせて様々なツールが用意されています。
- IL対策としての強み: 価格変動が起きても、比率の高い資産のウェイトが大きく下がることを防ぎ、50/50プールよりもHODLに近いパフォーマンスを維持しやすくなります。ILを「損失」として受け入れるのではなく、ポートフォリオのリバランス戦略の一環として「活用」する視点を提供してくれます。
- 注意点:
- 最適な比率を設計するには、ある程度の市場分析と知識が必要です。
- ニッチな組み合わせのプールは流動性が低く、期待した手数料収益が得られない可能性があります。
こんな人におすすめ: ✅ 自分の相場観をDeFi運用に反映させたい戦略家 ✅ インデックス投資のように、複数の資産に分散投資したい人 ✅ 50/50の制約に縛られず、より高度なLP戦略を試したい上級者
結論:インパーマネントロスは敵ではなく、管理すべきコストである
ここまで読み進めたあなたは、もはやインパーマネントロスを漠然と恐れる初心者ではありません。その正体、発生メカニズム、そして具体的な対処法までを理解した、一歩先のDeFi投資家です。
最後に、最も重要なマインドセットを共有します。
インパーマネントロスは、避けるべき絶対悪ではありません。それは、流動性提供というビジネスを行う上で発生する「必要経費」あるいは「管理すべきコスト」です。
私たちが注目すべきは、インパーマネントロスという単一の数字ではなく、トータルのリターンです。その関係は、以下のシンプルな式で表せます。
トータルリターン=(取引手数料収入+ファーミング報酬)−インパーマネントロス
たとえインパーマネントロスが発生したとしても、それを上回るだけの取引手数料や、プロトコルからの追加報酬(イールドファーミング)があれば、あなたの資産はHODLしていた場合よりも確実に増えていきます。
集中流動性を活用して手数料を最大化するのか。ステーブルペアでILをゼロに近づけるのか。カスタム比率でポートフォリオを最適化するのか。どの戦略を選ぶかは、あなたのリスク許容度と市場に対する考え方次第です。
DeFiの世界は日進月歩です。今日紹介したプロトコルや戦略も、明日にはさらに進化しているかもしれません。しかし、インパーマネントロスという根源的な概念を理解していれば、どんな新しい技術が出てきても、その本質を見抜き、適切に対応することができるでしょう。
さあ、コンパスと地図は手に入れました。嵐を恐れず、しかし天候を読み、賢く帆を張りながら、DeFiという大海原へ、あなたの資産を増やすための航海へと、今こそ漕ぎ出しましょう。
-
DeFi学習20ステップ目次
DeFi(分散型金融)の基本から応用までを20ステップで完全解説!ウォレット作成、DEXでの取引、レンディング、イールドファーミング、リスク管理まで、初心者でも着実に知識を習得し、未来の金融テクノロジーを実践的に学べるロードマップです。
続きを見る